株式会社伊藤園(社長:本庄大介 本社:東京都渋谷区)の中央研究所は、テキサス大学MDアンダーソンがんセンター(米国テキサス州ヒューストン市)のWaun Ki Hong(ワン・キ・ホン)教授、Anne Tsao(アン・タオ)博士らとの共同研究で、口腔白板症として知られる、口腔癌の予備軍である前癌病変をもつ患者に対して行った臨床試験により、緑茶エキスが口腔癌の予防剤として有望であることを見出しました。この試験結果の詳細は、米国癌学会の専門誌『Cancer Prevention Research(キャンサー プリベンション リサーチ)』2巻、11号に掲載されています。
≪ 経緯 ≫
緑茶の飲用と癌との関連については、これまで多くの疫学研究が行われています。さらに、緑茶抽出物や緑茶の主要成分であるカテキンについては、実験モデルで、さまざまなタイプの癌の発症や転移を抑制することが報告されています。しかし、発癌リスクの高い人々に緑茶成分を投与して癌予防効果を確認した報告は、ほとんどありません。
今回、緑茶の予防剤としての効果を高リスク患者群で試験するため、口腔癌の前癌病変である口腔白板症患者に、癌予防研究用に開発した緑茶エキスを投与し、有効性を調べました。なお、この緑茶エキスは、緑茶(茶葉)からの自然抽出液を使用したものです。
≪ 研究内容 ≫
口腔白板症と診断され、本試験の参加を同意した41名の被験者を対象に試験が行われました。被験者は、緑茶エキスの用量が、体表面積1m²あたり0(プラセボ群)または500mg、750mg、1,000mgのいずれかになるよう無作為に振り分けられ、1日3回、12週間にわたって緑茶エキス含有(または非含有)カプセルを摂取しました。また、緑茶エキスを投与する前と投与開始12週間後に、口腔内の病変の一部をバイオマーカーの測定のために採取しました。
緑茶エキスが口腔白板症に対して有効であったか否かについては、臨床学的評価(病変の縮小)と組織学的評価(悪性度の改善)により判定しました。
≪ 結果 ≫
最大用量(1,000 mg/m²)およびその次の高用量(750 mg/m²)を摂取した被験者群では、58.8%で病変の縮小が見られ、臨床的な改善が確認できたのに対し、最小用量群(500 mg/m²)では、36.4%、プラセボ群は18.2%でした。
投与開始12週間後の臨床学的評価
(注)被験者41名のうち2名については、有効な試験を実施できなかった
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プラセボ群 | 緑茶エキス群 (500 mg/m²) |
緑茶エキス群 (750 mg/m²) |
緑茶エキス群 (1,000 mg/m²) |
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人数 |
11 | 11 | 8 | 9 |
完全寛解(※) |
0 | 1 | 0 | 0 |
部分寛解 |
2 | 3 | 5 | 5 |
病状不変 |
4 | 4 | 1 | 1 |
病状悪化 |
5 | 3 | 2 | 3 |
改善率 |
18.2% | 36.4% | 58.8% |
※完全寛解:病変が完全に消失した状態
また癌の増殖に必要な血管新生に関するバイオマーカー(VEGF:血管内皮増殖因子)に関しても、緑茶エキス投与群で改善傾向が示されました。
以上の結果より、今回の研究で、緑茶が口腔癌の予防剤として有望であることを確認しました。MDアンダーソンがんセンター腫瘍医学部長のWaun Ki Hong教授は、本研究成果について、「長期間の投与における緑茶エキスの有効性と安全性を確立するためには、さらに大規模な試験が必要ではありますが、本試験結果は、緑茶の、口腔癌のリスクが高いヒトに対する予防剤として、その将来性に大きな希望を与えられるものです」とコメントしています。今回の結果を受け、今後さらに、緑茶と口腔癌発症リスクの高い患者に関する研究を進めてまいります。
当社はお茶を中心とした食品を通じ、幅広く美容や健康との関連について研究を進めております。未知の可能性を秘めているさまざまな有効成分の研究とともに、その活用方法について、今後も提案し続けてまいります。