食事をするとき、どのような飲み物を選びますか?
チョコレートやケーキなどの甘いお菓子と、コーヒーや紅茶といった飲み物との関係性は多く紹介されていますが、料理については、あまり見たことがありませんね。 料理といっても、国や地域、お店、家庭によっても多種多様です。
そこで、“和食文化”日本料理に欠かせない「出汁(だし)」と一緒に飲み合わせる飲み物の定番「お茶」との関係性について、科学的に検証しました。
- お茶の味わいをつくる成分
- お茶とだし汁のうま味相乗効果
- お茶を飲むと和食の感じ方が変わる?
- 和食をおいしく感じさせるお茶の可能性
1.お茶の味わいをつくる成分
お茶の味わいをつくる主な成分は、「カテキン」と「カフェイン」、「アミノ酸」があります。 お茶の健康成分として広く知られている「カテキン」は、強い“渋味”を持ち、「カフェイン」はお茶の”苦味”の主要な成分です。
一般的に“うま味”の成分として知られる「アミノ酸」は、お茶のおいしさにも欠かせません。お茶に含まれるアミノ酸の半分以上は、「テアニン」と呼ばれるお茶特有の成分で、その他「グルタミン酸」なども含まれます。しかしながら「テアニン」は、普通にいれたお茶では、ほとんどその“うま味”を感じることはできません。それでは、お茶の“うま味”は「テアニン」以外の「グルタミン酸」の味わいなのでしょうか。お茶のうま味は「グルタミン酸」であるという研究報告もありますが、「グルタミン酸」だけではお茶特有のうま味は再現できません。「グルタミン酸」だけではなく、「テアニン」など、その他のアミノ酸や香気成分が合わさることで、お茶の“うま味”は感じられるのです。
これらの3つの味わいをつくる主成分は、水への溶けやすさがそれぞれ異なります。「アミノ酸」は水に溶けやすいですが、「カフェイン」や「カテキン」は水に溶けにくいという性質があります。この性質を利用すれば、湯温と浸出時間を調整することで、アミノ酸とカテキンの含有比率を変化させて、“うま味”と“渋味”のバランスを調整することができます。
2.お茶とカツオ出汁、うま味の相乗効果
和食には、カツオや昆布、煮干などさまざまな出汁が存在します。特に、うま味が強く出る出汁として、カツオと昆布からとる「合わせ出汁」が挙げられます。これは、カツオ出汁の核酸(イノシン酸)と昆布出汁のアミノ酸(グルタミン酸)が関係しています。核酸系のうま味成分と、アミノ酸系のうま味成分が合わさると、うま味が飛躍的に増加し、うま味の相乗効果が生まれます。
カツオ出汁と昆布出汁は和食の基本です。うま味の相乗効果を利用した味づくりは、古くからの日本人の知恵だったのですね。
そこで、和食と相性の良い定番の飲み物の「お茶」が、“うま味”の観点からどのように関係しているのかを検討してみました。
お茶とカツオ出汁のアミノ酸水溶液の混合物を含めて複数種類作成し、“うま味”の相乗効果について比較したところ、緑茶モデルとカツオ出汁モデルを混ぜたときに、うま味は飛躍的に増加することが分かりました。一方で、カテキン量が多いモデルでは、うま味相乗効果は抑制されてしまいました。
サンプル名 | モデル試料の構成 |
---|---|
緑茶モデル | 緑茶に含まれるアミノ酸で構成された水溶液 |
カツオだしモデル | カツオだしに含まれるアミノ酸、核酸で構成された水溶液 |
混合モデルA | 緑茶モデルとカツオだしモデルを1:1で混合した水溶液 |
混合モデルB | 緑茶モデルとカツオだしモデルを1:1で混合したものにカテキン(EGCG)を250mg/L添加した水溶液 |
混合モデルC | 緑茶モデルとカツオだしモデルを1:1で混合したものにカテキン(EGCG)を500mg/L添加した水溶液 |
佐藤晃平, 衣笠仁. (2016). 緑茶が和食のコクに与える影響の評価
3.お茶を飲むと和食の感じ方が変わる?
実際の和食では、うま味の相乗効果による味わいの変化は実感できるのでしょうか。
カツオ出汁を使った日本食(筍の土佐煮)と、水とお茶のいずれかを飲み分けて、味わいの印象の違いを調査してみました。
筍の土佐煮を食べる直前に水を飲んだ場合、“カツオの風味”の印象が強いままであるのに対して、直前に渋味の少ないお茶を飲むと、第一印象の“うま味”のインパクトが高く、飲み込むまでの間は“甘味”の印象が強くなり、同じ筍の土佐煮でも風味の感じ方に変化があることが分かりました。
お茶を直前に飲んだ場合、「うま味→カツオの風味→甘味」と風味は変化に富んでいます。一方で、直前に渋味の強いお茶を飲むと、“お茶の渋味”の印象が強くなりすぎてしまい、筍の土佐煮の風味が感じにくくなってしまいました。
佐藤晃平, 衣笠仁. (2017). Temporal Drivers of Liking による緑茶と和食の相性評価試験
4.和食をおいしく感じさせるお茶の可能性
それぞれの研究の結果から、お茶の「アミノ酸」と出汁の「核酸」の組み合わせが、和食の“うま味”を飛躍的に高めることがわかりました。 お茶には、出汁を使った和食との飲み合わせはもちろんのこと、料理に使うことでも“うま味”を一層引き出して、おいしくする可能性があります。
伊藤園ではお茶が料理の感じ方に及ぼす影響を理解することで、お茶と料理のペアリングに関する理解が一層深まると考えています。今後もお茶やお茶の成分の料理の感じ方に及ぼす影響を明らかにしていきます。
共同研究者より
昔はお弁当の場合を除くと、お茶と食事をセットで食べるという習慣はあまりありませんでした。 最近では、飲料とセットで食べ物を食べるという習慣がかなり増えてきました。それにともなって食中飲料を選ぶ頻度が高くなりました。 新しい食習慣になっているのだと思います。普段何気なく行っている、次のおかずに移るためにお茶を飲むということは、もしかすると何か理由があるものなのかもしれません。 研究の方向性としてはお茶を食行動の面から捉えるというのは面白いと思います。伊藤園さんらしい研究ではないでしょうか。
この結果をもとにいろいろなチャレンジができるのではないかと期待しています。
龍谷大学農学部食品栄養学科 教授
一般社団法人和食文化国民会議 会長
伏木 亨教授
< 関連文献 >
論文
1) Yu, P., Yeo, A. S. L., Low, M. Y., & Zhou, W. (2014). Identifying key non-volatile compounds in ready-to-drink green tea and their impact on taste profile. Food Chemistry, 155, 9–16.
2)Yamaguchi, S. (1967). The Synergistic Taste Effect of Monosodium Glutamate and Disodium 5’-Inosinate. Journal of Food Science, 32(4), 473–478.
3) Kumazawa, T., & Kurihara, K. (1990). Large synergism between monosodium glutamate and 5’-nucleotides in canine taste nerve responses. American Journal of Physiology Regul Integr Comp Physiol.
学会発表
佐藤晃平, 衣笠仁. (2016). 緑茶が和食のコクに与える影響の評価. 日本官能評価学会 2016年大会
佐藤晃平, 衣笠仁. (2017). Temporal Drivers of Liking による緑茶と和食の相性評価試験. 日本食品科学工学会 第64回大会
ニュースリリース等
緑茶と和食の組み合わせによる感覚特性の変化~緑茶は和食のうま味を引き立てることが期待されます~(2017年10月5日)
注)組織名、役職等は掲載当時のものです(2018年10月)