【研究レポート】「人生100年時代」に向けて

~抹茶の摂取が健常中高年者の認知機能に及ぼす効果を科学的に検証~

人生100年時代を迎え、健康寿命の延伸が注目される中、認知症への関心はますます高まっています。 厚生労働省の発表によると、2025年には65歳以上の認知症高齢者の数が約700万人(国民の5人に1人)に増加すると予測されており、「認知症予防」が社会的課題となっています。

  1. 認知症とは
  2. 抹茶の認知機能改善効果に対する研究

 

1.認知症とは

認知症は、脳の働きの低下によって認知機能に障害が起き、日常生活・社会生活が困難になる状態の総称です。 その症状は記憶の消失だけでなく、理解力や判断力にも大きく影響します。 年をとるほど認知症になりやすくなり、65歳以上70歳未満の有病率は1.5%、85歳以上では27%に達するといわれます。 認知症の中で一番多いのは、アルツハイマー型認知症で、脳神経細胞が変性して脳が萎縮することで発症します。 次に多いのが血管性認知症で、脳梗塞や脳出血などの脳血管障害により発症します。最近注目されているのが軽度認知障害(MCI)です。 認知症のような記憶力などの能力の低下がみられますが、症状はまだ軽い状態で、認知症の前段階と考えられます。 この段階で何らかの適切な処置を行うことにより、認知症の発症が抑制されると期待されています。

2.抹茶の認知機能改善効果に対する研究

疫学研究では、以前より緑茶をよく飲む人は認知機能障害が少ないことが報告されています。 伊藤園では、高齢者を対象にした緑茶抹の継続的な摂取による臨床試験において、改訂長谷川式簡易知能評価スケールやミニメンタルステート検査(MMSE)などの 認知機能検査結果で改善が認められました1)2)。 しかし、中高年者に対する影響、特にどの認知機能に対して効果があるかは検証が十分ではありませんでした。

そこで、加齢に伴う認知機能の低下に焦点を当て、認知機能が低下し始める中高年者の認知機能に対する抹茶の効果について検証しました。

≪対象者≫
物忘れが気になっている50歳以上69歳以下の健常な日本人男女を募集し、試験参加志望者88人のうち、認知症の疑いのある人を除外するため、MMSEを行い、 得点が22点以上の62名を選抜しました※1。

※1 22点未満を認知症疑いとする為、22点以上の被験者を試験に参加させました3)。

≪抹茶の投与量≫
試験食品の抹茶量(1日2070mg)は、茶道における薄茶点前の1杯分の量に相当します。抹茶2070mg中にはテアニン50.3mg、茶カテキン171.0mg(EGCG、GCG、ECG、CG、EGC、GC、EC、Cの合計)が含まれています。 抹茶は、一般的に被覆栽培した茶葉を揉まずに乾燥させた後、石臼などで微細化したものをいい、茶道のお点前用に使われるだけでなく、最近ではお菓子やアイスクリームなどの原料として使用され、広く普及しています。お茶にはカテキン、テアニンなど様々な有用成分が含まれていますが、抹茶も同様で、特にテアニン量が多いことが特長です。

≪試験方法≫
プラセボを対象とした無作為化二重盲検並行群間比較試験により検証しました。 抹茶群31名には、ゼラチンカプセルに充填した試験食抹茶2070mg、プラセボ群29名にはコーンスターチをクチナシ色素で着色したものを充填したプラセボ食を12週間毎日摂取していただき、4週目、8週目、12週目にコグニトラックス検査、また、12週目にMMSEによる認知機能検査を実施しました。

≪研究結果≫
コグニトラックスでは10項目の課題うち、ストループテスト(単純課題)、注意シフトテスト※2、持続処理テスト(単純課題)で反応時間の有意な減少が認められ、注意シフトテストでは正答数も有意に増加しました(下図参照)。 以上の結果より、物忘れが気になる中高年者において、抹茶2gを12週間持続して摂取することで認知機能の一部である実行機能(物事を迅速に判断して実行する能力)や注意機能が改善されることが確認されました。

※2 注意シフトテストは、指示に従って素早く正確に対応する力を測定します。画面に3つの図形が表示され、上段に示された課題と適合する「色」または「形」を選ぶテストです。注意力や判断力を判定します。

伊藤園は、お茶が持つさまざまな可能性を探求し、20年にわたって、「カテキン」の基礎研究をベースに、お茶の成分が脳機能に与える効果を科学的に証明する研究に取り組んでまいりました。 そのなかで、抹茶に含まれる成分「テアニン」の脳神経保護作用や、抹茶の継続摂取により健常中高年者の認知機能の一部が改善することが確認されたことから、「抹茶」を活用して、認知機能に関する課題解決に挑む「ITO EN MATCHA PROJECT」を2020年11月に立ち上げ、始動しております。

当プロジェクトは、社内で横断的な組織を構築し、研究成果をもとにした製品開発、共同研究、地域社会・他企業との協働によるCSR活動などの多角的な事業を展開していきます。

< 関連文献 >

論文

1)片岡洋祐ら テアニン高含有緑茶抹摂取による高齢者の認知予防効果 日本未病システム学会誌15 (2009)
2)Kazuki Ide et al, Green Tea Consumption Affects Cognitive Dysfunction in the Elderly: A Pilot Study. Nutrients. (2014) May
3) 田平武 かかりつけ医のための認知症診断テキスト:実践と基礎 2014

ニュースリリース

・抹茶の継続摂取で健常中高年者の実行機能が改善することを確認
注)組織名、役職等は掲載当時のものです(2021年4月)