株式会社伊藤園(代表取締役社長:本庄大介 本社:東京都渋谷区)は産業医科大学 産業保健学部 人間情報科学と共同で、緑茶およびほうじ茶の飲用は複数の生理反応へ影響を与え、精神作業の成績向上や主観的な疲労感の軽減にも寄与することを確認しました。またこの試験結果は、学術雑誌Scientific Reports(※1)に掲載されました。
お茶は、お食事中や喉の渇きを潤したいときや疲れを癒したいとき、気分を変えたいときなど、日常茶飯と言われるように私たちの生活に浸透しており、馴染み深い飲み物です。先行文献では緑茶の香りによってリラックス感に関する主観的評価が向上したことが示され、緑茶の香りにはストレスを軽減させる機能がある可能性が示唆(※2)されています。しかしながら、生理学的な反応と主観的な気分を客観的に評価した研究はほとんどありませんでした。
そこで産業医科大学 産業保健学部 人間情報科学と当社の研究チームは、お茶の摂取によるストレス軽減・回復機能を多角的に評価するため、日本茶飲料の摂取が自律神経活動などの生理反応、精神作業の成績、疲労度などに関する主観評価に及ぼす影響について検証しました。
〇研究の内容
健常な成人男性の試験参加者20名を対象に、安静5分間の後に暗算作業を5分間×3回、最後に安静5分間を実施し、各作業前と最後の安静前に飲料(白湯、市販の緑茶またはほうじ茶;50ml×4回)を摂取させました。安静時および作業時に生理反応を計測し、作業前後に主観的疲労感を評価しました。白湯+緑茶、あるいは白湯+ほうじ茶の試験は別日に実施し、全参加者が2回試験に参加しました。
〇研究の結果
緑茶およびほうじ茶の飲用は、白湯と比較して暗算作業の正答率が向上しました(図1)。加えて、作業後の主観的疲労感の結果から、ほうじ茶には疲労を感じさせない効果がある可能性が示唆されました(図2)。なお、緑茶とほうじ茶の異なる機能として、ほうじ茶は緑茶と比較して暗算作業中に「中だるみ」がなかったこと、また主観的な疲労評価について不快感とだるさ感が上昇しなかったこと、さらに緑茶では見られなかった時間切迫感が減少したことが示されました(※3)。
また、緑茶およびほうじ茶の飲用は生理反応にも影響し、末梢血流量の指標である鼻尖部皮膚組織血液量TBV(※4)や脳の代謝活動の指標であるOxyHb(※5)の変化を抑制することが示されました(図3、図4)。加えて、副交感神経活動の指標であるHF(※6)、CVI(※7)、BRS(※8)の3つの指標が同様にリラックス方向に上昇したことが示されました(図5、図6、図7)。先行研究との関連調査により、この生理反応には茶の香り刺激が関与している可能性が考えられました。
〇得られた結果により期待されること
本研究の結果より、作業前や合間に緑茶およびほうじ茶の飲用は、デスクワークなどの作業成績向上や疲労感の軽減につながることが示唆され、日常生活で摂取する程度の少量であっても短時間でストレス感を軽減させる機能が期待できます。ただし、本研究では、作業の回数を重ねたことによる慣れの影響が作業成績や生理反応に表れている可能性が否定できませんので、現在、慣れの影響を排除した試験を追加で実施し、より詳細な研究成果が得られるよう研究を進めています。
お茶は、米国でクリエイティブサポートドリンクなどと呼ばれIT企業など創造的な仕事をする方々に支持されていますが、緑茶およびほうじ茶を「ちびだら飲み(※9)」することで、リラックスした状態で作業成績の向上や主観的な疲労感の軽減に寄与することが、本試験を通じて確認できました。今後も当社は、健康創造企業として健康訴求を目指した製品開発に寄与する研究だけでなく、お客様の健康への不安や疑問をお答えするような研究にも積極的に取組み、多方面から健康で豊かな生活と持続可能な社会の実現に引き続き貢献してまいります。
(※1)Kurosaka C. et al., Effects of green tea and roasted green tea on human responses. Scientific Reports|Published: 13 April 2024(https://doi.org/10.1038/s41598-024-59383-y)
(※2)Murao, S., Yoto, A. & Yokogoshi, H. Effect of smelling green tea on mental status and EEG activity. Int. J. Affect. Eng. 12, 37–43 (2013)
(※3)田形千佳他, 緑茶及びほうじ茶飲料摂取が成人男性の精神作業成績と主観評価に与える影響の検討. 薬理と治療 vol.51 no.9 1377-1388 (2023)
(※4)末梢⾎管の収縮(α交感神経活動)を反映しており、⿐尖部から計測されたものはストレスへの感度が⾼い。
(※5)酸素化ヘモグロビン。近⾚外線分光法による脳機能計測(NIRS)を使用し、脳⾎流変化に伴う⽣体組織中のヘモグロビン(Hb)変化量を計測する。頭皮から約3 cm下にある大脳皮質の酸素状態を捉えることで、脳の代謝状態を捉える。
(※6)RRI 周波数解析の高周波数成分(0.15-0.4 Hz)。呼吸活動に伴う胸腔内圧の変化と呼吸中枢からの信号による⼼拍変動で、副交感神経のみが関与しているといわれている(図8)。※RRI:⼼電図のR波とR波の間隔。心拍数はRRIの逆数を1分あたりに換算した値(図9)。
(※7)RRIのポアンカレプロット指標。CVI=log(SD2×SD1)で算出され、副交感神経活動の指標といわれる。※SD1:RRI(i)と RRI(i+1)の散布図を描いた楕円の短辺の⻑さ。SD2:楕円の⻑辺の⻑さ(図10)。
(※8)⾎圧の上昇・下降を検出し、⾎圧を⼀定に保つために⼼拍を制御する機能の程度。副交感神経系のみが関与するため、副交感神経系活動を評価できる有⼒な指標であると考えられている。⾎圧の変化に対するRR間隔(⼼拍数)の変化の割合で評価する。BRS=(LFRRI/LFSBP) 1/2 [msec/mmHg]より算出される。LFRRIとLFSBPは、それぞれRRIおよびSBPの周波数解析のLF成分である。※LF周波数帯域=0.05〜0.15 Hz
(※9)デスクワークなどをしながら少量ずつ時間をかけて、ちびちび、だらだらと飲むこと。